【活動報告】意見書を提出しました(2019.2.17)

私たち西中国山地自然史研究会では、(仮称)新浜田ウインドファーム風力発電事業環境影響評価方法書に対して、次の通り、事業者(株式会社グリーンパワーインベストメント)へ意見書の提出をしました。

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「(仮称)新浜田ウインドファーム風力発電事業 環境影響評価方法書」

住所 広島県山県郡北広島町東八幡原10119-1

氏名 認定NPO法人 西中国山地自然史研究会(理事長 近藤紘史)

平成31年2月12日

私たち西中国山地自然史研究会は,1994年の発足以来,八幡高原を中心とする西中国山地で,自然を調査し,その普及啓発と保全に努めてきました.設立の発端となったのは,旧芸北町が提唱した『芸北田園空間博物館構想』です.この構想は,町域全体を博物館とみなし,そこに生息生育する生きものをはじめ,風土と人の営みによって作られた景観や文化までも,そのまま「田園空間博物館の収蔵物」とみなし,保存,研究,展示をしていくというものです.この構想に賛同しながら,地域の自然を見つめ,人の暮らしに寄り添い,活動してきました.主な活動の成果として,八幡湿原の自然再生事業(広島県,環境省補助),高原の自然館活動(農林水産省補助により設立,北広島町教育委員会),芸北茅プロジェクトによる草原の保全(北広島町教育委員会など)があります.

配慮書閲覧に際しては,当会としての基本姿勢と意見をとりまとめましたが,今回の意見書においても,まずは会の方針を再掲した上で,方法書について,当地における専門家としての意見を述べます.

基本姿勢

  • 原子力発電は,地球環境にとってあまりにもリスクが大きいため,将来的には廃止していくことが望ましい
  • 原子力発電に頼らない社会のためには,風力や太陽光を用いた発電や,薪の利用の促進など,自然エネルギーを使うように暮らし方を変えていく必要がある
  • 自然エネルギーの活用においても,その行為が生態系・暮らし・文化に与える影響について科学的に評価した上で,事業地や事業内容を決定するべきである

方法書についての意見

1.総括的事項

方法書に記されるべき調査内容について,具体的な方法が示されていない項目が多く見られ,方法書の体を成していません.例えば,魚類の調査地は示されておらず,主要な生態系である湿原が調査対象から除外されていいます.また,文献調査についても配慮書段階のレベルと変化がなく,具体的な方法を検討するために必要な基礎情報が集められていません.

また,経済産業大臣からの意見に関しても,本方法書では全く検討及び対応がなされていません.

さらには,事業対象区域が配慮書段階に比べて111.7%にも拡大するとともに,道路拡幅などの改変が予定される谷筋が新たに追加され,送電施設の設定も「地下埋設及び架空(予定)」などと大きく変更されました.特に送電施設については,地形や景観の改変を伴うため,方法書の段階で送電経路を決定し,送電経路における影響を環境影響評価の項目に盛り込むべきです.

調査項目の検討が不十分であること,経済産業大臣からの意見への対応がなされていないこと,計画が大きく変更されたこと,の3点から,本方法書は,環境影響評価を行うための要件を満たしていないと考えます.

2.鳥類について

事業地周辺は,多くの希少鳥類が確認されており,工事中から施設稼動後にかけて,繁殖地の消失,繁殖行動の阻害,バードストライクなどの直接的影響が懸念されます.特にシラガホオジロは国内における越冬地が他には1ヵ所しかないため,当該事業地の環境改変は国際的な鳥類相の保全に影響を与えると考えます.鳥類相調査においては,RDB等指定種に加え,小型の渡り鳥等を含めて調査,予測及び評価をする必要があります.

【参考】

日本野鳥の会島根県支部および認定NPO法人西中国山地自然史研究会の調査により,事業実施想定区域に環境省絶滅危惧ⅠB類の5つがいのクマタカが生息し,うち1つがいは2017年に繁殖し,巣立ちも確認されている.

事業実施想定区域の北側尾根には既設の風力発電機29基が存在する.その南側尾根に新たに17其の風力発電機が設置されると,5つがいのクマタカの行動圏を46其の風力発電機で囲むことになり,クマタカへの影響が増幅されることになる.また,環境省絶滅危惧ⅠB類のイヌワシが近隣の風力発電施設で確認されており,島根県の準絶滅危惧種に選定されているオシドリの繁殖が事業実施想定区域内で2017年と2018年に確認されている.

また,環境省絶滅危惧ⅠB類のヤイロチョウ,環境省絶滅危惧Ⅱ類のミゾゴイ,環境省準絶滅危惧のハチクマとオオタカ,島根県絶滅危惧Ⅱ類のヤマセミなども繁殖期に確認されている.さらに,国内では八幡高原と大分県九重町のみに渡来し,越冬する希少なシラガホオジロの渡りの経路となっている.

2.魚類,両生類について

事業地は急峻な稜線近くに位置するため,搬入路の建設等による集水域の変化が,湿原の消失や河川への土砂流入を招くおそれがあります.本事業地の流域には,ゴギ,スナヤツメ,小型サンショウウオ類,ヒキガエル等,多くの希少水生動物が生息しており,魚類,両生類等についての調査は極めて慎重に行う必要があります.しかしながら,魚類の調査地点(図6.2-3(7))は,尾崎沼(w11),と下流域(w13)の2ヶ所のみが計画されており,本坪谷湿原や本坪谷川,滝の平湿原では計画されていません.また,オオサンショウウオを除く両生類では,調査地点すら提示されていません(図6.2-3(5-1)).

このように,魚類,両生類についての調査計画はきわめて不十分であり,方法の評価をする以前の段階であると言えます.

3.大臣意見への対応について

配慮書に対して経済産業大臣からは,総論5項目,各論6項目とともに,これらの検討の経緯及び内容について,方法書以降の図書に適切に記載することが述べられました.しかし,方法書「7.2.2方法書までの事業内容の具体化の過程における環境の保全の配慮に係る検討の経緯」には,大臣意見に関する検討の経緯が記されておらず,検討されたことが読み取れません.主務大臣の意見が無視された内容では,適切な環境影響評価の手順とは言えません.

具体的には,指摘のあった以下の項目について方法書に記されるべきであり,方法書として不備があると考えます.

  • 騒音等に係る環境影響:「風力発電設備等の配置等の検討に当たっては,(中略)及び最新の知見に基づき,住民への影響について適切に調査,予測及び評価を行い」に対し,疫学的知見に基づく論文等が多数報告されているにもかかわらず,検討の過程がありません.また,配置についても配慮書のとおりとした検討内容が示されていません.
  • 植物及び生態系に対する影響:「検討に当たっては,専門家等からの助言を踏まえた現地調査により自然度の高い植生及び復元困難な湿原植生に影響のある集水域等の状況を把握した上で,植物及び生態系への影響について予測及び評価を行うこと」に対し,方法書では専門家からの意見を踏まえずに調査地を設定しています.調査地の設定が不適切なままに調査を実施しても,環境への影響を評価,予測することはできません.
  • 景観に対する影響:「大佐山の稜線一帯」を「優れた自然の風景地」とした上で,「事業計画の具体化並びに調査,予測及び評価に係る手法の選定に当たり,人と自然とのふれ合いの活動の場に対する影響と併せて,地域住民,国定公園の管理者及び利用者,関係する地方自治体並びに専門家の意見を踏まえること」としています.つまり,調査手法の選定の段階で地域住民,国定公園の管理者及び利用者,関係する地方自治体並びに専門家と協議することとされていますが,協議の過程は全く無く,対応方針にも大臣意見が反映されていません.
  • 人と自然とのふれ合いの活動の場:「阿佐山恐羅漢山線道路(歩道)については管理者と十分に協議の上,改変を回避すること.加えて阿佐山恐羅漢山線道路(歩道)を除く大佐山及び弥畝山一帯については影響を回避または極力低減すること」とされていますが,この件に関する「管理者との十分な協議」の記録やその計画がありません.また,阿佐山恐羅漢山線道路(歩道)については「改変を回避すること」と明示されているにも関わらず,方法書以降の手続き等において留意する事項の中では「影響を極力回避又は低減する」としています.「阿佐山恐羅漢山線道路(歩道)については影響を回避する」とすべきです.

4.結論

本方法書では調査地,時期,頻度,手法など,調査,予測の具体的な方法が示されておらず,環境への影響を評価できると判断することができません.特に,不可逆性の高い湿原生態系への影響調査や,送電線の設置などの不確定な要素が多く,見切り発車の感が否めません.

方法書の内容以前に,本事業計画では,何らかの措置を講じたとしても,生態系や人の暮らしに重大な影響を与えることは明らかであり,事業地の選定が不適切であると評価し(仮称)新浜田ウインドファーム発電事業は計画を撤廃すべきであると考えます.