朝8時30分、水口谷(むなくとだに)湿原を歩いてみることにしました。梅雨とは思えない晴れ間が続いていましたが、天気予報では11時ごろから雨が降るとのこと。そんな予報を気にしつつ、どうしても“バイケイソウ”だけは見ておきたくて、足早に木道を目指しました。木道に入った途端、耳に飛び込んできたのは鳥たちの鳴き声でした。ホオジロ、ホトトギス、そして遠くからカッコウの声も聞こえてきます。雨の前だからか、鳥たちはいつも以上に活発で、森の中はにぎやかな雰囲気でした。ほんの数日前には見られなかったスイカズラやノアザミ、サワヒヨドリの花が、しっかりと姿を見せていました。反対に、前回は満開だったウツギの花は落ち着いていて、季節がまた一歩進んだことを感じさせます。湿原の花たちは、まるでバトンを渡すように、次々と主役を交代しているようです。目的のバイケイソウは、ハンノキ林の中に咲いていました。花は淡い緑色で、背丈があるため遠くからでもよく見えます。光の少ない林床にすっくと立つその姿には、静かで落ち着いた存在感がありました。「バイケイソウ(梅蕙草)」の“梅”は、花の姿が梅に似ているから──そんな説があるそうです。本家の梅の花びらは5枚ですが、バイケイソウは6枚。ひとつ多いだけで印象がずいぶん変わります。花の形はシャープなのに、実際に見るとやさしく感じられ、控えめながらもどこか気品のある佇まいでした。なお、バイケイソウの花には「異臭がある」とも言われています。今回はその香りを確かめる余裕がありませんでしたが、次に訪れるときには、そっと近づいて、静かに香ってみようと思います。



